旧三井家下鴨別邸の機能美について

冬が始まりそうな11月末に京都へ。

下鴨神社の南に位置する三井家の旧別邸を見学しました。
明治13年(1880年)に三井家の木屋町別邸が建築され、その後現在の地へ移築した重要文化財です。
昭和26年(1951年)以降、京都家庭裁判所の所長宿舎として平成19年(2007年)まで実際に使用されていたそうです。

明治初期に京都で建設された大正期までに整えられた大規模別邸屋敷の主屋を中心に、玄関棟、茶室の3つの建築で構成されています。

当時の圧倒的な職人の技術と、建築の端々の豊かなディテール、小粋なデザインの数々が印象に残りました。
その中でも特に印象的だった2つの建具について書きたいと思います。

木製蛇腹戸のこと

2階客室の襖を開けると、木製蛇腹戸と望楼へ続く隠し階段があります。
木製蛇腹戸は、木製の引き戸です。建具の下にそろばん状のレールが付いた蛇腹式。
レールの上を戸がくるんとL字に走り、格納されていく仕組みです。
限られた空間を最大限にいかす機能美に圧倒されました。



望楼の雨戸のこと

少し急な階段の先、3階に位置する望楼は四方がガラス窓になっていて比叡山や大文字などを望めます。
雨戸の構造がとても珍しいものでした。
通常の雨戸は、雨戸を仕舞う戸袋が窓の片側にあり、窓が左右に走ります。
この望楼の雨戸は、格納する戸袋を窓下に設け、上下2枚に分かれています。
窓下にある戸袋のおかげで、窓の高さは床に座った時の目線に近い。
こうすることで、戸袋が望楼から望む景色の邪魔することなく、
四方余すことなく眺望を楽しむことができるデザインになっているそうです。


旧三井家下鴨別邸は、どの空間も窓が広く開放的な作りに感じました。

2階の畳に目線を近づけると、華奢で繊細な高欄の向こうに、
庭園の四季折々の景色が借景のように目一杯に広がります。
また、主屋のガラスの一部には明治時代に作られたものが残っており、
表面にゆらぎがある当時のガラス越しに庭園を眺めることもできます。

機能美が溢れるばかりに詰まった眺望が美しい空間です。

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